読売新聞医療情報部の実力


自称「医療の読売」こと読売新聞医療情報部が取材したデータの数々をまとめた一冊です。

数字でみるニッポンの医療 (講談社現代新書)

数字でみるニッポンの医療 (講談社現代新書)

患者さんが医療機関に支払う診療費の内訳,薬価の決まる仕組みといったあたりは割と詳しく取材していて,一般の方にとっても読む価値はあるのではないかと思います。例えば「薬漬け」「検査漬け」という批判はメディアの常ですが,本書では,患者側が必要以上に要求したり,診察に関わる診療報酬が低すぎる点を指摘していてこの点では評価できます。


再診料よりむしろ各種管理料によって外来診療費が左右されることも詳しく説明しています。昨年の診療報酬改定で開業医と中小病院の再診料が引き下げられなかったことは象徴的な意味合いに過ぎず,外来管理加算の要件が厳しくなったことでむしろ下げ幅が大きくなる可能性にもちゃんと言及されていて(現に収益は減ってしまったわけですが),むしろ,どうしてこの認識が紙面に反映されないのか不思議な気がします。


それだけに,医師不足について述べた章での明らかな事実誤認が目立つのは残念です。一つ例を挙げると,

また,診療科による医師の偏在も進んでいる。人口100万人当たりの脳神経外科医数は日本が47人で,韓国の39人,アメリカの18人などをしのいで世界で最も多い。心臓外科医数も,人口比で見ると日本がアメリカの2.7倍,ドイツの3.3倍もいる。

まるで脳神経外科や心臓外科に医師が偏在しているから他で医師が不足しているような書き方ですが,実際には脳外科も心臓外科も絶滅危惧種に近いわけです。優秀な読売記者が,日本の場合は人口当たりの医師が多かったとしても,パラメディカルの人員が少ない分医師がやらなければならない業務量がそれ以上に多いという基本的な事実を知らないのは不自然です。もっともこれに関しては,医師の偏在を強制配置によって是正すべしという社是がある以上はそれと矛盾した記事は書けないわけで,取材力不足というよりは,読売新聞記者であること自体による限界かも知れません。


もう一点苦言を述べますと,客観的なデータを提示したあとに「もっとも医療情報部に寄せられた投書には×××という声もあるので,一概に言えないかも知れない」といった偏った主張を追加するのは,折角の取材による記事の信頼性を損なう可能性が高いのでやめた方がいいと思います。