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医師と代替医療

読書 代替医療


代替医療のトリック

代替医療のトリック

各所で評判になっているので読んでみました。本書で最も力点が置かれているのは,医療介入の有効性を公正に判定することがいかに重要なことかということでしょう。人類は長い歴史のなかで失敗を繰り返し数多くの犠牲の末に確立した「科学的根拠にもとづく医療」の解説に一章を費やし,数々の代替医療に対してあくまで予断を持たずに科学的根拠があるのかどうかを検討します。原題の"Trick or Treatmet?"(インチキなのか治療なのか)は,ハロウィンの"Trick or Treat”をもじっただけでなく,はじめからインチキと決めつけるのではなく公正に判定しようという姿勢の表れなのでしょう(それだけに予断を与える邦題は少し残念です)。

ネットでの書評もたくさん出ていて(ohira-yさんのところがまとまっています),本題である代替医療の評価についてはすでに的確な解説がされていますので,ここでは医師と代替医療の関わりについて感想を書きとめておきます。

本書では世間に広まっている代替療法のほとんどはせいぜいプラセボ効果しかなく,医師はそうしたプラセボ効果に頼るべきではないとします。プラセボでも効果があればよいではないか,という見解に対しては,プラセボが効果を発揮するためには患者さんを共謀して欺かなければならないこと,無害なプラセボでもそれをきっかけに根拠のないほかの治療に手を出すきっかけになること,そうすれば標準的な医療介入を避けることで本来助けられる命を失うかもしれない,と反論します。にもかかわらず患者さんに代替医療を勧めたり,代替医療にかんする質問に肯定的に答えたりする医師が多いということで,「効果が証明されていない,または反証された医療を広めた責任者トップテン」に代替医療関係者やメディアと並んで医師がランクインされています。

標準的な医療にもとづいた説明をすることで納得せずに医師を困らせる患者さんが一定数いることは認めていて,それでも代替医療に頼らないための妥協案としては「純粋な偽薬でない偽薬」つまりあまり期待できないが理論上はわずかでも効果のありそうな薬を処方することを提案していますが*1,それ以上に医師が誠実であることが強調されています。なぜなら,医師が標準的な医療にもとづいた説明をおこなったとしても,思いやりや共感に欠けた態度では患者さんが不満を持ち,代替医療に向かわせるきっかけを作ってしまうからです*2。その一方で代替医療はひとりひとりに時間をかけて(その分料金も取りますが)満足感を与え,プラセボ効果をいっそう高めているのです。もちろん医療機関で良好な関係をつくるために十分な診療時間がとれていないのが現実であり,改善のためには政府による投資が必要であることも指摘はされるのですが,それにしても当方としては耳が痛いです。

考えてみれば当方の代替療法に対する理解は不十分であり,そのため「害がなければ別にいいだろう」くらいに考えていたのが正直なところです。いいわけをすれば標準医療の知識をアップデートするだけで精一杯なところに代替医療のことまで勉強する余裕はなかなかなかったのですが,世間に広まっている代替医療がいかに根拠を欠くもので,それにも関わらず,いかに多くのひとがそれを受け入れるのかということを知る意味で,本書は貴重な一冊となりました。


 

*1:当方が以前述べた許容できるプラセボもそれに近いかもしれません。

*2:そのために当方ができるかもしれない役割について以前こちらで書いたことがありました。