長谷川和夫先生と認知症

認知症診断の生き字引的存在といえる長谷川和夫先生が認知症と診断されたニュースは一昨年あたり耳にしていましたが,今回ご自身でその経緯を本にまとめられました。 

認知症(当時は「痴呆」)診断の歴史とか,長谷川式スケール開発の裏側といったトピックも面白いのですが,なによりタイトルにもある,当事者としての認知症との向き合い方が本書の主題だと思います。長谷川先生自身,認知症の症状がこれほど変動するとは専門医として考えていなかった,と仰っている通り,当事者でないと分からないこともたくさんあるのでしょう。

何かを決めるときに,ボクたち抜きに物事を決めないでほしい。ボクたちを置いてけぼりにしないでほしいと思います。

第3章 認知症になってわかったこと p69 

このあたりは意思決定支援とかパーソンセンタードケアといった概念は知っていても,当方自身が本当の意味でやるべきことをやっているのかを問われている気がしました。

つい先日はNHKスペシャルでも取り上げられていました。

こちらは長谷川先生を支える奥様や娘さんとの関わりを中心とした構成で,病状の進行が容赦なく映像に捉えられていることもあって著作とはまた違う印象でしたが,それでも「認知症になっても見える風景は変わらない」というメッセージは共通しているのだろうと思います。

スカイウォーカーの夜明け

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

このブログも更新頻度がどんどん低下していますが,医療とか社会保障の話題だとどうしても下調べで止まってしまうので,このあたりで本や映画といった本来の日記路線に戻ってみようと思います。というわけで今回は年末に鑑賞したスターウォーズエピソード9の感想です。 

前作を観たときは「予想外の展開だけど一体この後どこに着地するつもりなんだろう…」と不安にかられましたが,今作で一応破綻せずに話がまとまったので安心した…というのが正直なところです。「スカイウォーカーの夜明け」って一体何のことだろうと思っていたけど,終わってみたら確かに「スカイウォーカーの夜明け」と呼ぶにふさわしい終わりかたで,よかったのではないでしょうか。個人的には満足です。

ただ冒頭,恒例のタイトルからプロローグが始まってすぐ,ある人物の名前が出てくるところで個人的には「え?」という唐突感がありました。これはきっと前作で何か伏線が張ってあったのを見逃していたんだろうと思い,帰ってから一度エピソード7・8を見返してみたのですが,特にそれらしい箇所は見当たりませんでした。もしかしたら前作製作後に軌道修正とかがあって設定が後付けされたのかもしれませんが,どうも釈然としないところです。

あと細かいことですが,主人公が解読して重要な手がかりとなる本ですが,あれって前作で燃えてなくなっていたはずなのに,いつ回収したんだろう…と余計なことが気になってしまいました。どうでもいいですね。

人生という名の会議

小籔さん起用の「人生会議」ポスター、批判受け発送中止:朝日新聞デジタル

人生の最終段階でどんな治療やケアを受けたいかを繰り返し家族や医師らと話し合っておく取り組みの普及啓発のために厚生労働省が作ったポスターに批判が多く寄せられている。厚労省は26日に予定していた自治体への発送をやめ、ホームページへのPR動画の掲載も見合わせた。

 厚労省が意思決定のプロセスであるアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の日本版として「人生会議」を社会に周知するためのポスターが炎上しているようです。ポスターで伝えようとしている「余命の少ない患者さんが自分の望みをあらかじめ家族に伝えておけばよかったと後悔するストーリー」も確かにACPの一面といえますが,そこをことさらに取り上げたことが批判されているのだろうと思います。「人生会議」というくらいなので,死の間際だけでなく人生の節目節目で対話がなされるほうがいいし,結論として「家に帰る」が前提とは限らないわけですから。

 そもそもACPを導入したらそれで本人も周囲も納得できる結末を迎えられるのかといえばそんな単純な話ではなく,今でも最後まで迷ったり後悔しながらも何回も話し合ったのだからこれでよかったのだ,とせめてもの納得を得る…ということはあるでしょう。そうした人にとってあのポスターが「よく話し合わないから後悔している」というメッセージになると,大変つらいことになってしまいます。

 記事中でも指摘されているように,厚労省としては社会に「刺さる」ような広告にしたかったのでしょうけど,もともと意思決定のプロセス自体は実際のところ個別性が高い上にやっていることは地道な対話なので,インパクトのある絵面とは根本的に相性が悪い気がします。どうしてもやろうとすればあのポスターのように一面的なメッセージになってしまうのでしょう。ACP自体がそうであるように,社会に対しても地道な周知を続けるしかないのかもしれません。

 

参考:

「人生会議」してみませんか|厚生労働省 現在修正済み

厚生労働省の「人生会議」PRポスターに抗議しました of 卵巣がん体験者の会スマイリー

アドバンス・ケア・プランニング いのちの終わりについて話し合いを始める(PDF)