医療費ゼロの町


高齢者医療に税金、賛否 東京・日の出町 医療費ゼロ…現役世代に危機感

女性の平均寿命が全国で3番目に短い東京都日の出町が、75歳以上の「後期高齢者」の医療費を4月から無料化する政策を打ち出した。医療費の窓口負担分を町が全額助成するもので、昨年4月に始まった後期高齢者医療制度の下では全国で初めてという。後期高齢者医療に自治体がサービスを「上乗せ」する動きだが、現役世代の負担感は高まる。過去に行った自治体では“成否”が分かれており、今後に注目が集まっている。


自己負担をゼロにすることにより予想される事態はモラルハザード,つまり医療サービスの濫用です*1。その結果として自治体の立場から見たときは医療費の増大が,医療機関からみたときは医療者への負担の増大が問題となるでしょう。自治体の財政負担が大きくなりすぎれば,無料化を打ち切るなり他の支出を削減するなり,政治的な判断が行われることになると思いますが,一方で医療機関への影響はどうでしょうか。


この記事にある日の出町は人口約1万6000人の小さな自治体で,おそらく高齢者の比率が高いと思われます。町内の医療機関は町役場のHPを参考にすると病院が2施設,診療所が3施設です。2病院の内訳は当該病院HPを見る限り,1施設は診療科が精神科・リハビリ科・緩和ケア科で263床のうち一般病床は36床,救急指定はありません。もう1施設はリハビリを中心とした療養型病院です。したがって,患者さん,特に急性期のケースの多くはおそらく,日の出町に隣接するあきる野市の医療機関,特に町のHPからもリンクされている基幹病院を受診していると推察されます。そういう状況でモラルハザードが生じると,もし町外の医療機関を受診したときには無料化の対象外ということであればいいのですが,そうでなければ医療サービスの濫用は当の自治体より,むしろ町外の基幹病院にとって負担となる可能性があります。そのあたりも含め,今後の成り行きに注目したいと思います。


あとこれは当方の妄想なんですが,医療費の無料化によりモラルハザードを起こすということだけなら十分予測できることでわざわざ追試するまでもないにせよ,隣接する自治体によって自己負担が異なる場合,住民はどういう行動に出るのかというのはちょっと興味があります。特に今回のケースではあきる野市に住む75歳以上の方にとっては,日の出町に転入すれば同じ医療機関を利用しながら自己負担がなくなるわけですが,手間や費用だけでなく住む場所へのこだわりなども含めたコストを天秤にかけてどういう判断をするのかは,ちょっとした社会実験かも知れません。


 

*1:低所得者が医療を受けられない問題については,一律の無料化ではなく,セーフティネットで対応するほうが適切だと考えます。