休日も夜も


勤務医が疲弊して医療現場が崩壊しているから開業医がもっと頑張れということなのですが,当方も最近まで勤務医で当直もやっていましたから開業医が頑張ってくれたらもう少し楽なのにと思ったことはありました。とはいっても実際には開業医特に当方のような弱小の無床診療所では時間外にできる診療行為なんて問診と理学所見を取ってあとは内用薬や外用薬,頑張ってもワンショットの静脈注射か筋肉注射ぐらいまで。ましてや往診となればさらにできることは限られます。つまり30年前の水準の医療しか提供できないわけです。勤務時代の当直を思い出せば大方は経過観察や対症療法で済んでいたわけですから,それでもいいといえばいいのかも知れません。


とはいえ当然のことですが往診の医療レベルでは診断できないケースもあるわけで,もちろんその辺の安全域を考慮して高次医療施設に紹介するのですが,それにしても最初から病院を受診していた場合に期待できる結果とならないことは充分あり得ます。はっきりいうと後から考えると病院に行けば助かったのに往診では助からなかったというケースです。いくら「総合医」を育成してレベルを上げたとしても,往診とはそういうことだと思うのです。


ですから当方の方針としては,往診を行うのは病院を受診して受けられる医療がそのまま自宅に来るわけではない,ということを理解していただける患者さんやお家族に限りたいのです。さらにいえばある程度普段から通院したり定期的に訪問診療して状況が把握できていることが望ましいと思います。そうした患者さんであれば,当方としても時間外に呼び出されたり往診に伺うことは個人的にはまったく構いません。


普段受診していないけれど病院は遠いから今日診て欲しいという方や,時間外受診や往診に通常業務通りの医療レベルを要求される方に関しては,希望される医療を提供できる可能性は相当に低くなります。自分の能力を越えたことを引き受けるのは患者さんの不利益となりますから,結局のところアクセス制限をしなければならないということになるわけです。アクセスの数に関しては「開業医のグループ化」で解決しようとしているようですが,質に関してはどうしようもないと思います。


厚生労働省あるいはそれに追随した報道各社や政党が「開業医はもっと働け」と主張するのが不愉快なのは,働きたくないからというわけではなく,この辺の事情を全く考慮せずに「開業医がもっと働けば問題は解決」という論調でものを言うからです。開業医が地域のためにできることは当然あるとは思いますが,医療費抑制政策によって生じた空洞を埋めるにはまったく不充分と考えます。


以上はあくまで個人的な意見です。他の先生からは異論もあると思いますが。