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医薬品クライシス

読書


医薬品クライシス―78兆円市場の激震 (新潮新書)

医薬品クライシス―78兆円市場の激震 (新潮新書)

製剤業界の現状をわかりやすく解説した一冊です。職業柄医薬品の情報に接する機会は多いですが,あれはあくまで成功したごく一部を見ているだけであり,新規の薬品を作り出すことがいかに困難なことなのか,よく分かりました。ただでさえ大変なところに,common diseaseにかんしては完成度の高い薬品がそろってしまいターゲットがいわゆる難病に向かっていること,さらに要求される安全基準が厳格化したことなど複数の要因によって新薬開発のハードルはますます上がっていて,げんにここ数年新薬の数が明らかに減っているとのことです。主力製品がここ数年で次々と特許切れを迎え,それに変わる新製品が出てこないという状況は製薬会社にとってまさに「クライシス」です。

先発品が特許切れを迎えてジェネリックが発売されることは製薬会社にとっては痛手ですが,患者さんにとっては負担の軽減になるのもまた事実です。昨年の事業仕分けでは,薬価が高すぎることが医療費増加の要因とされ,診療報酬改定でも大幅に切り下げとなりました。とはいえ,それが患者や国民にとって必ずしも福音となるかといえば,製薬会社にとっての「クライシス」は長期的にみれば新規薬品を開発する力を低下させてしまうこと,世の中にはまだ病気に対する有効な治療がなく新薬を待っているかたも大勢いるということを考えると,そう単純な話でもないように思います。

また,あとがきの中で,医薬品をはじめとした医療の進歩により病気が克服されていくとしても,社会のほうに長生きした人間をすべて受け入れるだけの体制ができていないのではないか,という主旨のことを述べてられています。上記の新薬開発に関してもそうですが,個人にとってのメリットが必ずしも社会全体の利益をもたらさないという,社会保障にどうしてもつきまとうジレンマがやはりここでも問われているということなのでしょう。