教養としての社会保障

 

教養としての社会保障

教養としての社会保障

 

 

 某所で紹介されていたので読んでみました。長年に渡って厚労省社会保障政策に関わり「社会保障と税の一体改革」に尽力した,まさに「中の人」による社会保障政策の解説本です。まず,複雑怪奇な社会保障の話をこれだけ明晰で読みやすい文章で説明できる点だけでも著者の見識と力量が伺えます。

 

前半では現在に至るまでの経緯,後半は将来への提言という構成ですが,前半に関しては,社会保障の恩恵を受ける人つまり全ての国民が前提として知っておくべきという意味でも,学校で教えてもいいくらいの内容に思えました。実際には,社会科の公民で扱う社会保障は単なる一項目で,内容も通り一遍なんですよね。

人口が減って社会が縮小していくことを前提にその社会を持続可能にするシステム,というのは,おそらくまだ存在しません。

つまり,先例がない,モデルのない世界です。これから私たちがつくらなければならない「人口減少社会を乗り切る持続可能な社会のシステム」は本邦初公開,本邦どころか世界初演,世界史上初の挑戦ということになります。

p252 第III部 日本再生のために社会保障ができること

これ一つをとっても共有しているのといないのでは議論がだいぶ違ってくるのではないでしょうか。

 

現在日本が抱える大きな課題である「財政再建」「経済成長」そして「社会保障の機能強化」はお互いに因果が絡み合っていて,どれか一つではなく同時に達成しなくてはならず,その難題に対する回答が福田内閣から始まり政権交代を経て与野党で合意に至った「社会保障と税の一体改革」ということになります。とはいえ,社会保障というあまりにも巨大で,あまりにも多くの利害が絡まった制度を改革するのは,技術的にだけでなく,政治的にもおそろしく困難だったであろうことは想像できます。「中の人」として具体的な例は出せないのでしょうけど。

改革・制度改正というのは,膨大な調整と説得のプロセスの積み重ねです。ともすれば調整の過程で,一体何のためにこの改革をやっているのか分からなくなることもあります。民間企業でも同じだと思いますが,「事を成す」には強い意志と信念,そして何よりも何のためにそれをやるのかという目標・目的の共有が必要です。

p243 第III部 日本再生のために社会保障ができること

 

何年か前に医療崩壊が話題になった頃,どうしたらこの現状が良くなるのか,多くの方が議論されていましたが,各論はともかくとしても,ある程度深く討論していくとどこかでマクロ政策に突き当たってしまい,そこから進まなくなることが少なからずあったように記憶しています。当たり前ですがそれだけ巨大かつ複雑な問題ということであり,単純な解決策などそもそも存在しないのでしょう。そうした難問に向かい合い続ける方々がいることを思いつつ,社会保障を維持するためには医療従事者として,また社会保障の利用者の一人として何ができるか当方も考え続けたいと思います。