医師・村上智彦(むらかみともひこ)、46歳。
財政破綻の夕張市で、医療を変え、まちを変えようと本気で取り組む男だ。委託費など市からの資金は一切出ない中、累積債務の清算がおよそ45億円にのぼった夕張市立総合病院の運営を引き受けた。
村上は、患者の声にじっくり耳を傾け、薬の量や種類を減らし、病気予防の大切さを語る。そして目指すは医療を核にした、まちの再生だ。「大口たたいてって思う?でも、物事を変えられるのは"若者、よそ者、ばか者"って言うでしょ。」と村上。
番組は、およそ4ヶ月間、村上に密着した。夢を語り、走り続ける彼の情熱の根源はどこにあるのか。ニュースでは知り得ない熱き"ばか者"村上の日々を追った。
夕張医療センターの村上先生の特集。久しぶりにテレビをつけたら放映していたので観てしまいました。直接は存じ上げないのですが伝え聞く限りでは,とにかく「熱い」先生らしいです。それは,例えば家族の顔を見たのは去年の夏が最後だとか,経営会議が終わったら明け方近いだというこの番組で紹介さているエピソードからも伝わってきます。「自分の家族も幸せにできない人間が患者を幸せにできるはずがない,という人がいるけど,それは違うと思う」という内容の発言もありました。そうした情熱があるからこそ破綻した夕張市立病院の経営を引き受けられたのでしょう。
ただ思うのですが,村上先生のように私生活を犠牲にして地域のために奉仕できる医師ばかりではありません。現実に,私生活を犠牲にして地域のために奉仕した結果,燃え尽きてしまった医師も数多くいる訳です。村上先生の実践されている地域医療を「理想の医療」として取り上げる報道やドキュメントはこの番組に限りませんが,仮にこれが「理想の医療」であったとしても,少数の人間の努力と犠牲に依存するシステムがすべての僻地で実践できるのかといえば,かなり疑問です*1。
村上先生の行っている医療を全面否定するつもりはないのですが,「赤字が累積した僻地病院を潰して病床数を削減し,医療費を抑制する」「医師が私生活を犠牲にして,少ない人員で労働力を高める」という医療モデルは,限られた地域で短期的な効果を期待する*2ならともかく,(村上先生の意図は分かりませんが)固定化・普遍化を目指した場合は厚生労働省が推進している医療費抑制政策と同じ構造だと思えるのですが気のせいでしょうか。そして殊更にそれを理想化するような報道・ドキュメントばかりであることに一種の胡散臭さを感じるのです。
「超人医師がいれば金をかけなくてすむ*3」のが本当に理想で,「必要な金と人員を投入して普通の医師でも何とかできるようにする」という選択肢は本当に間違いなんでしょうか。本来であればその点が国政選挙で問われるべきだと思うのですが,年金問題をいいことに(?),ほぼ争点から消えつつあるのが残念です。