法律家の認識
再開した「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」に関する記事より。
「大野事件判決は、判例とは言わない」―前田座長 - CBニュース
樋口範雄委員(東大大学院教授)は、大野病院事件の判決が一定の基準を示したことを評価し、「福島地裁判決で、こんなことを言っているということを『注』などで出していただくと、標準的な医療行為から著しくかけ離れた場合はこういう場合で、こんなに厳しい要件だから、刑事裁判ではない別の仕組みで医療者が頑張るという本筋が伝わる」と述べた。
これに対し、前田座長が次のように述べて反対した。
「大野病院事件の判決は、法律家の間では重視されない。それはやはり、一審判決でしかない。地裁の判断でしかない。法律の世界は、そこが非常に厳しくて、原則として最高裁でなければ判例とは言わない。(大野病院事件は)最高裁まで争って決まったものではなく、一地方裁判所の判断。同じ医療過誤の問題に関しては、最高裁の判断もある。それとの整合性を持たせつつ整理して、医療界の心配を解くことが必要だ」
判決に対する法律家の間で評価が分かれる,という主旨ならまだ分かりますが,「一地方裁判所の判断」に対して法務大臣や警察庁長官がわざわざコメントしたという事実を踏まえると「法律家の間では重視されない」とはいえないと思うのですがどうでしょうか。大野病院「事件」の影響の大きさを考えればこそ判決前に大きな議論となったわけですし,判決の影響をことさらに過小評価する姿勢は釈然としません。しかも医療事故の原因究明に関する検討会の座長としての発言としては,かなり客観性に欠けると思います。
それ以前に,前田氏は福島地検の判決前に「これまでの医療事故に対する起訴は不当ではなかった」と仰っていましたから*1,大野病院の事例に関する福島地検の判断への評価はとても興味があります。どうせ「アリバイ会議」だから議論の過程は重要でないという向きもあるかも知れませんが,個人的には座長の見識を伺ってみたいところです。どこかインタビューに行かないかなあ。