最後まで病気と闘うこと
患者さんと医療者のあいだで死生観がどのように違うのかというアンケートが行われたとのことです。
がん患者、最後まで闘病81% 医師は19%とギャップ - 47news
がん患者や医師らを対象にした死生観に関するアンケートで、望ましい死を迎えるために、がん患者の81%は「最後まで病気と闘うこと」が重要と回答したが、医師は19%だったとの結果を、東京大の研究グループが14日、発表した。
看護師も30%にとどまり、医療側と患者側の意識の違いが浮き彫りになった。
「最後まで病気と闘う」ことは患者さんにとってある意味心の支えともなり得ますが,一方では死を受け容れないことにも繋がります。死を受け容れずに負担の大きい治療や処置を続けることは,かえって患者さんにとってデメリットとなっていると思えることもあります。それはやはり,病気を客観的な目で見ようとする医療者の立場だからこそなのでしょう。上記アンケートで「最後まで病気と闘う」ことに対する医師の肯定的な回答が少ないのは,多かれ少なかれそうした考え方が背景にあるのではないかと推察します。
上の記事にあるような「意識の違いが浮き彫りになった」という書き方だと,「意識が違う」ことに対してどことなく否定的なニュアンスが感じられますが,死生観に限らず,医療に関する認識が患者さんと医療者のあいだで異なるのは,当然のことではないでしょうか。ただし,互いの価値観を否定するだけでは何も得るところはありません。以前のエントリでも述べましたが,個人的には
医師として診察しながら,患者さんの立場にも立っているなんてことは不可能に近いし,それができると断言する方がむしろ欺瞞ではないかという気がします。病気という共通の敵を相手にするときには,あくまで患者さんは患者さんの立場,医師は医師の立場であって,その上でお互いに相手の立場を斟酌すればいいんじゃないでしょうか。
■患者の立場に立つということ 2008-09-18
と考えます。
この件に関しては,緩和ケアの専門家であるhirakata先生のところで言及されていました。さすがに専門家の経験に裏打ちされたコメントには当方とは比較にならない説得力があります。
このように、お互いが歩み寄る努力をしていくと、がんの場合にはほとんど「共通の目的地」を設定できるようになる。「妥協点」というような消極的な目的地でなく、「これだけ考えてこれだけ頑張ったんだから、これ以上はないよね」という最善の到達地点に達することができる。事故死や突然死の場合にはこの時間が持てない。がん死に与えられた、大きな長所だと思う。
「がん患者の8割『最後まで闘う』」 - がんになっても、あわてない
死までに時間的猶予が与えられていることが患者さんと医療者にとってメリットになりうる,という考え方はまさに卓見と思います。