来年は医療と介護の診療報酬同時改定ということで現在議論が行われているところです。財源に関してはプラス改定という意見が早々に下火となり,争点はすでにプラスマイナスゼロかマイナスか,というあたりになっているようです。まあ震災復興で金がないからといえばそれまでなんでしょうけど,前回改定にしてもほとんどゼロに近いプラスだったことを思えば,仮に震災がなくてもマニフェストに掲げたような増額は期待できないような気もします。
とはいっても高齢化による医療需要増大という現実には対処しないといけないわけです。中医協に出てきた資料(PDF)を眺めてみる限り,大方針としては急性期病院に医療資源を集中して,入院患者数や介護施設入居者数は削減,その分は在宅医療を充実させて賄うということのようです。本当にその大方針で対処できるのかという疑問ももちろんあるのですが,個人的に関わりのある在宅医療に関する方針はどうしても気になります。
これまでは在宅医療を推進しようということで在宅療養支援診療所(在支診)については診療報酬が比較的優遇されてきたという経緯があるのですが,上記の資料の中で,在支診のうち自宅での看取りを行っているのは半数しかいないことが指摘されています。そして,今後さらに自宅での看取りを推進するために在支診の中でも在宅医療に特化した施設を優遇しようという流れになっているようです。
これは要するに,在宅医療を行っている診療所がキチンと看取りに取り組んでいないのが問題であると仰りたいのでしょう。ただ自分なりに考えると,在宅医療の特性上,医療機関側が集約しても決して効率が高まるとは限らないわけで,むしろ在宅医療に特化していないような普通の診療所が参加しやすいようにするほうがより多くの患者さんにとって利益になるような気がします。
看取りだけで在宅医療への貢献度を評価していいんだろうかという点も疑問です。看取りに至る以前の段階でも,在宅での生活を継続するために必要な医療の介入はいくらでもあるわけです。最終的に病院で最期を迎えたとして,それまでの在宅医療で支えられた期間に意味がないとは言い切れません。
さらに言えば,自宅での看取りが困難という場合,診療所側の努力不足だけではなく,介護力の不足といった患者さん側の要因も無視できません。その場合,必要なのは医療よりむしろ介護サービスということになりますが,医療供給を入院から在宅にシフトするさいに介護の需要増をどこまで考慮しているのかという点も相当に不安です。
そう考えると,在宅医療の促進といっても素直に喜べないのが正直なところです。とはいえ,病床や介護施設が必要数に追いつかない限りは行政の意図に関わらず,在宅医療の需要は増えることはあっても減ることはないでしょう。できることなら,医療を提供する側にとっても受ける側にとっても極力足を引っ張らないような方策を立てて頂くことを願っています。