許容できるプラセボ


外来を受診する患者さんが医療者に提示する訴えは,必ずしも実際に抱えている問題と一致するとは限りません。よくあるのは「具合が悪いから薬を出してほしい」と要求していても,医療者からみると薬の投与ではなく,それ以外の対処をすべきであると思われるケースです。この場合,診療におけるやりとりのなかで,患者さんが薬はあくまで「目的」ではなく「手段」であることを理解して,本来の目的(このケースでは症状の改善)を医療者と共有できるのが理想ではあります。

ただ現実には時間が限られていたり意思疎通がうまくいかなかったりすると,最終的に何らかの薬を出してしまい,これがまたプラセボ効果によって予想外に症状が改善したりすることもしばしば見受けられます。そうして,もともと抱えていた問題を解決するのでなく,とにかく薬を服用すればいいという方向への動機付けが強化されてしまうと,軌道修正はどんどん困難になります。

方便として「毒にも薬にもならない」プラセボを利用するのは,効果が期待できないのに副作用の可能性がある薬を処方するよりはマシかもしれませんが,問題の解決を妨げる点では同様に有害です。プラセボを使うとすれば,あくまで患者さんの本来抱えている問題に到達することを踏まえて,限定的な効果であることを説明しながらというのが個人的には許容できる範囲*1かと思っています。まあそうはいっても理想通りにはなかなかいかないんですが…。


 

*1:費用負担はまた別に考えないといけないのですが。