NHKの代替医療特集を見てみました


追跡ファイル:どう向き合う? がん“代替療法”|NHK 追跡!AtoZ

日本人の3人に1人の死亡原因となっている「がん」。手術、放射線、そして抗がん剤の三大治療の他に、患者が頼りにしているのが健康食品などの「代替療法」だ。患者の2人に1人が使い、その市場規模は1兆円とも言われている。
しかし、患者たちは今、大きな悩みに直面している。インターネット上などで情報が氾濫する中、どの情報を信頼していいかわからないのだ。日本では、国が「代替療法」の効果を検証したり有効性を研究したりしていないため、患者は自力で情報収集しなければいけない状況に置かれている。
また、患者の不安な気持ちにつけこんで商売する悪質な業者が後を絶たない中、警視庁では、そうした業者の摘発に力を入れている。さらに、厚生労働省も患者が代替療法についての正しい情報を見極められる仕組みを作ろうと動き出した。
がん患者の多くにとって拠り所になっている「代替療法」。どう付き合っていけばいいか、考える。

代替医療に興味があるという視聴者がまず押さえておく程度の情報についてはまとまっているように感じました。前提として,標準医療のかわりになる根拠が示された代替医療はなく,あくまで一部の治療に関して標準医療を補完するにとどまる,と明言していたこと,代替医療を選択することで標準医療を受ける機会を逃し,不幸な転帰を辿るケースについて言及していたのはよかったと思います。

悪徳業者についての取材も,注意喚起という意味では重要でしょう。ただ「効くとは思っていない」「患者はカモ」というのなら誰が見ても詐欺というのに異論はないでしょうけど,実際には勧める本人もかなり本気で効果があると信じていて,善意に基づいた信念ゆえに客観的事実を受け入れないという場合も結構あって,単純にだますほうを糾弾すればよいという話ですまないあたり,けっこう根が深い問題もあります。本気で問題提起するのであれば,今回の特集で終わらずに続編を期待したいところです。

患者さんが代替医療に走る要因として,病気そのものによる不安に加えて医療機関での信頼関係が築けないことが挙げられ,それに対する取り組みとして精神腫瘍科医による相談のようすが紹介されていました。そもそもOncologistの数も十分でないのに,さらに希少種のOncopsychologistを活用するといっても…という気がするのですが,少なくとも,精神的問題を医療側と共有するために時間をかける必要があるというのは間違った指摘ではないでしょう。医療側としても患者さんと向かい合いたいのは山々ですし,じっさい過密な勤務の中でなんとか時間をやりくりしているのが現実です。じゃあこれ以上どうやって時間を捻出するの?というのが問題なわけです。

それだけに,司会者が「医師側にも責任があるということですね?」とまとめようとしたのは気になりました。ゲストのかたは「責任というのはちょっと…」とフォローしてくれてましたが,そのあたりの構造的問題について最終的に医師の精神論で片付けるのではせっかくの取材も台無しです。そちらもできたら引き続き取材をお願いしたいところですが…以前のNHK特集の論調を考えるとあまり期待できないかもしれません。