- 作者: 郷原信郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/01/16
- メディア: 新書
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求められる社会的要請とルールに乖離が生じた場合には,ルールを社会的要請に合わせて運用するのが理想ではあるけれど,現実にはルールを遵守すること自体が目的化してしまった結果様々な弊害が生じている,という話。医療に関しては以前から指摘されていますが,医療事故に対する司法の介入や報道被害とその結果としての防衛医療だとか,医師の業務増加により過重労働せざるを得ない環境などはまさにそうでしょう。他にも看護師の内診問題,診療報酬の請求に対する査定などについて該当することは数多くあります。
旧ブログでも一度取り上げたことがありますが,弊害が限局的であるために社会一般に問題が認知されないのだとこれまでは認識していました。ところが本書を読むとよく分かるのですが,建築,交通,IT,金融など業種が違っても「実状とルールの乖離」の問題自体は普遍的に見られ,なおかつその弊害は深刻です。共通するのは行政の不作為と報道のミスリーディング。筆者は司法出身の方(以前のエントリで取り上げた日乗連シンポジウムの演者です)ですが,検察がマスコミ世論に影響されることも指摘されています。個人的にはそんなに簡単に世論の圧力に屈しないで頂きたいのですが,まあ現実には厳しいんでしょう。
自らを振り返ってみても,診療におけるガイドラインやエビデンスは個々の患者さんが適切な治療を受けるための指標ではあっても守らなければならないルールではないし,ましてや守っていれば必ず有益とも限らない訳ですから,機械的に「血圧が○○以上だから」「肝機能が○○以上だから」という診療をしないように自戒しないと...とか,いろいろと考えさせられる一冊でした。