長寿医療制度FAQ


厚生労働省:長寿医療制度の診療報酬について

平成20年4月より、長寿医療制度が施行されましたが、当制度において提供される医療の内容や診療報酬について、御心配の声が寄せられており、その解消のために別添資料を作成しました。
本制度においても、必要な医療が受けられなくなることはなく、むしろこれまでよりもより良い医療を選択することができると考えております。

野党の国会質問をはじめとするツッコミが厳しくなってきたためか(相変わらず大手メディアではほとんど報じられませんが),厚生労働省としては形だけでも公式回答を作らざるを得なかったということでしょうか。あくまでも「必要な医療が受けられなくなることはなく、むしろこれまでよりもより良い医療を選択することができる」という見解には変わりがないようです。「ご心配の声」とその回答は次の3つ。

(御心配1)患者が75歳以上になると、それまで受けていた医療が受けられなくなるのですか?

  • 75歳以上と74歳以下で受けられる医療に違いはありません。これまで受けてきた医療は変わりません。
  • それに加え、長寿を迎えられた方が、できるだけ自立した生活を送ることができるよう、「生活を支える医療」を提供します。

「受けられる医療に違いはありません」と言い切るのなら「じゃあなんでわざわざ別の制度にするの?」という疑問が誰でも浮かんでくると思いますが…。そういう「ご心配」にも回答いただきたいものです。上記回答の根拠として,3月26日の厚生労働委員会における舛添厚生労働大臣の回答が引用されています。

舛添厚生労働大臣 国民の命を守ることが第一優先順位でありますから、必要な医療はきちんとつけられる、そして保険証の種類が違うからといって、それで差別を受けることはない、そういうことであります。

「必要な医療」というのがポイントでしょうか。何をもって「必要な医療」なのかを恣意的に決めれば実質的に制限を設けても「差別」ではないと言い逃れできる回答だと思います。

(御心配2)「後期高齢者診療料」では、必要な医療や「フリーアクセス」が制限されるのですか?

  • 患者自ら選んだ「高齢者担当医」が病気だけでなく、心と体の全体を診て、外来から入院先の紹介、在宅医療まで継続して関わる仕組みです。
  • 後期高齢者診療料」の算定に係る届出を行った医療機関において、その医療機関を選んだ患者個々の同意があった場合に、適用されます。
  • 届出を行わない医療機関は、従来どおりの出来高等での算定が可能であり、届出を行った医療機関でも、「後期高齢者診療料」の対象患者であっても、これによらず、患者ごとに従来どおりの出来高等での算定を選択することも可能です。
  • 患者は、「高齢者担当医」や医療機関を変更することができます。
  • また、紹介なくとも、複数の医療機関や他の専門医療機関等にもかかることもできます。
  • この「診療料」を算定している場合でも、投薬の費用は別途算定可能であり、また、急性増悪時には550点以上の検査等(CT等)も別途算定可能です。

従来どおりの出来高等での算定が可能なのはその通りですが,出来高に含まれる各種管理料の算定基準をちょっと変更するだけで,開業医が高齢者の患者さんを囲い込むように誘導することは可能でしょう(■開業医のジレンマ)。その場合でも,厚労省にとっては「出来高制は残っているのだから,包括を選択したのは医療機関の判断」ということになります。まあ,あくまで当方の妄想ですので,そんなことありえないというのであれば結構なんですが。
あと「550点以上の検査等(CT等)も別途算定可能」って,どれだけの診療所がCTを設置して維持できると思っているんでしょうか。エコーもレントゲンも550点以下なんですが「必要な医療」ではないというお考えのようです。

(御心配3)長寿医療制度では、入院中の患者をそのまま「追い出し」ていくのですか?

  • 入院中の患者の多くが、可能であれば、住み慣れた在宅での療養を希望されているものと考えています。
  • 今回の長寿医療制度の診療報酬においては、このような患者の在宅復帰に向けた退院前からの計画的な支援とともに、訪問看護等の在宅医療の充実を図っています。

「追い出し」ていくのかというご心配については,まったく否定していないようですが…。これを読む限り「入院中の患者の多くが、可能であれば、住み慣れた在宅での療養を希望されている」から「追い出し」てもいいということになります。「可能であれば」という保留はスルーのようです。こんなこと厚生労働省の公式サイトに載せて大丈夫なんでしょうか,こちらが心配になります。


都道府県の社会保険事務局担当におかれてましては,この公式FAQに基づいて利用者からの問い合わせに回答しなくてはならない訳で,年金問題以来の騒ぎになるかと思われますが,ご健勝をお祈りします。個人的には診療報酬請求の絡みで社会保険事務局に同情心はあまり湧きませんが。