病院PFI成功に必要な5つの条件
民間の資金やノウハウを活用するPFI方式を全国の医療機関で初めて導入した高知医療センター(高知市)を運営する県・高知市病院企業団は16日、赤字体質の改善を目的に、経営業務を委託している特定目的会社「高知医療ピーエフアイ」と、PFI事業契約を解消する協議を始めることを決めた。「早期の経営改善につながる」との同社側からの提案を受ける形で、今後の協議で合意が成立すれば、企業団は2010年度からの直営化を目指す。
PFIといえば近江八幡市立総合医療センターがこの3月に契約解除したのが記憶に新しいところですが,もう一つの病院PFI事例である高知医療センターも契約を解除する方向で検討とのことです。とにかく経営状態が悪く,PFI側に運営費を払い続けるより契約を打ち切って違約金を払った方がましというひどい状況のようです。こうした報道を見ているとそもそも何のためにPFIを導入したんだろうという素朴な疑問が浮かびます。
もともとPFIは公共事業に民間企業の手法を導入することで海外では一定の評価を受けていますから,これこそ公立病院再生の決め手だという希望を抱くのも理解は出来ます。自治体病院経営の専門家である伊関先生によれば,PFIは理屈としては正しいものの,利用する行政側によって本来の理念が歪められてしまうことが問題,ということになるようです。
- 作者: 伊関友伸
- 出版社/メーカー: 時事通信出版局
- 発売日: 2007/12
- メディア: 単行本
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この本で一章を割いて公立病院PFIの問題点をくわしく解説されていて,非常に詳細な検討がされているので一読をオススメしたいのですが,それによると「病院建築PFIを行う条件」は以下の通りだそうです。
- 500床以上の大型病院の整備であること(一定の規模)
- 最近5年間で,医業収支比率100以上を3年以上達成していること。最低でも一時借入金がないこと(病院経営が優秀)
- 財政力指数が1.0以上(不交付団体)であること(自治体の財政力がある)
- 医師の欠員がないこと。労働基準法を遵守し,医師の月4回を超える平日宿直,月1回を超える休日当直を行っていないこと。可能であれば救急業務の医師の3交代制を実施していること。臨床研修指定病院で,研修医がフルマッチしていること(医師の招聘に心配がない)
- 現場の医療スタッフをPFIの主要スタッフに配置すること
第6章 病院PFIを考える p262
どれも今の日本ではかなりハードルが高くて,特に4番目はほとんど今の日本ではほとんど実現不能じゃないだろうかなんて思って読んでいましたが,よく見るとその次に,
正直,このような条件を満たす自治体病院は,日本に存在しないであろう。
というオチがあって思わず肩がガク,となってしまいました。伊関先生もお人が悪いというか…。上記は病院PFIのうち建築PFIに関する条件ですが,もう一つの経営PFIに関しても対象となるのは「経営が良好な病院のみである」だそうです。
結局のところ,そこそこうまくいっている病院ならともかく,瀬戸際に追い詰められてからPFIに飛びついても駄目で,そういうところは自治体が病院を経営するべきなのかまで遡って考えなければならないのでしょう。もっとも社会保障費削減一辺倒の昨今,自治体病院だけに責任を負わせるのは酷だとは思いますが。