医療と司法

医療紛争とメディエーション

これまでいくつかの医療裁判に関する情報を通じて,医療紛争の解決手段として裁判をはじめとした法的システムは相性が悪く,紛争当事者の満足度も低いことが当方にも理解することができました。ではどうすればよいのかという疑問に対する回答のひとつが「対…

「医療ミス」というメディア用語

2006年,京大病院で脳死肺移植を受けた患者さんが不幸にも亡くなった事例で,執刀医と麻酔科医が京都地検に送致されていましたが,このたび不起訴という結果になったようです。 元京大医師ら3人不起訴 脳死肺移植の女性死亡 - 47News 京都大病院で2006…

分断統治とはしご外し

イノセント・ゲリラの祝祭作者: 海堂尊出版社/メーカー: 宝島社発売日: 2008/11/07メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 38回この商品を含むブログ (159件) を見る海堂尊氏の新作です。以前の著作「死因不明社会」の小説版といった趣で,医療事故調査機関の…

医療と司法の溝

死因究明検討会15(1)(2) - ロハスメディカルブログ 堤「参考人が出しゃばって申し訳ないが、私どもが呼ばれるのも最後だと思うので言わせてもらう。座長、仕切りで、溝が埋まった埋まったと毎回やっているけれど、それが13回(ママ)も続いてしま…

過労死と安全配慮義務

医師の過労死、損害賠償請求を棄却−東京高裁 - CBニュース 小児科医中原利郎さん(当時44歳)がうつ病によって自殺したのは、最大で月8回に及ぶ宿直勤務をこなすなど過重な労働が原因として、遺族らが、勤務先だった病院を運営する立正佼成会の「安全配慮義…

法律家の認識

再開した「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」に関する記事より。 「大野事件判決は、判例とは言わない」―前田座長 - CBニュース 樋口範雄委員(東大大学院教授)は、大野病院事件の判決が一定の基準を示したことを評価し、「…

専門性と中立性

専門領域で問題が生じたときに,その原因と対策について議論するのは専門家の方が適任である,というのは妥当な考えだと思うのですが,メディアを通した言説を聞いていると「専門家だけで討論するのは適切ではない」という立場もあるようです。 例えば,大野…

控訴断念

<大野病院事件>検察、控訴断念へ最終調整 福島県大熊町の県立大野病院で04年、帝王切開手術中に患者の女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、福島地裁(鈴木信行裁判長)が業務上過失致死などの罪に問われた産婦人科医、加藤克彦医師(40)に無罪判…

軽症という名の地雷

診療所で進行癌が見逃されたとして民事訴訟に至った事例が報道されていました。病院で勤務していた頃には「見逃し」としか思えない事例に遭遇した経験もありますし,つい訴訟を起こされても仕方がないケースを想像したくなりますが,記事を読んでも「見逃し…

なぜ無罪判決なのか

大野病院「事件」の地裁判決に関して考えるときに,「無罪」という結果はもちろん重要なのですが,「なぜ無罪という判決に至ったのか」を考えることが,医療者だけでなく,医療を受けている,もしくは医療を受ける可能性のある方々にとって必要ではないかと…

8.20

本日,福島県立大野病院「事件」の地裁判決が出される予定です。 公判の傍聴記を拝見する限りでは,被告となった医師は与えられた環境のなかで全力を尽くしており,医療行為としてはきわめて正当であると考えます。患者さんの死亡という不幸な結果は,医師個…

専門用語は難しい

専門家と非専門家のあいだで使う言葉の定義付けが異なっていて,そのせいで意思の疎通がうまくいかないことは,どんな分野にもあり得ることです。日常会話で出てこないような難解な用語であればむしろ専門用語であることはすぐ分かるし,調べることも出来る…

百家争鳴

議論百出の死因究明の公開討論会 - キャリアブレインニュース 「診療関連死の死因究明制度創設に係る公開討論会」が7月28日、東京都文京区の日本医師会館大講堂で開かれた。学会や医師会、病院団体の代表が、「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱」につ…

刑事免責はあり得ない

日経メディカルオンラインに元検事の飯田英男氏のインタビューが掲載されていました。医療事故に対する刑事免責は許容できないとの趣旨で,そのうち大野病院事件に触れた部分を引用します。 刑事訴追、そのとき医師は… Vol.3「医師の刑事免責はあり得ない」…

第三者機関の理想と現実

医療事故が発生したときに,きちんとその原因を究明せずにあいまいにしておくことにより,患者側の不信が生じ,再発予防にも生かされないということは以前から指摘されて来ました。そういう反省を踏まえて医療事故を調査する第三者機関のあり方について議論…

第3.5次試案

厚労省から「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」なるモノが公表されたようです。 対象範囲で厚労相と異論―死因究明制度の法案大綱公表 - キャリアブレインニュース 医療事故が起きた場合に原因などを調査する「医療安全調査委員会」(仮称、医療安全…

日本医師会の大罪4

日本医師会が第三次試案に対する見解をとりまとめているとの情報を僻地の産科医先生のところで知りました。都道府県医師会レベルで「ご意見」を収集するようですが,このレベルであればまだ日本医師会のコントロールが可能と言うことなのでしょう。先日「会…

医療安全調査委員会設置法原案

第三試案に対するパブリックコメントを踏まえたのか踏まえないのか分かりませんが,医療安全調設置に関する法案原案が公表されました。 カルテ提出拒否に罰金30万円以下−死因究明制度の原案 - キャリアブレイン 医療死亡事故の原因を調査する「医療安全調査…

医師法21条は違憲無効

大野病院「事件」は現在地方裁判所において業務上過失致死と医師法21条違反について争われています。前者に関しては医師の医療行為が「過失」などではないことが,専門家の知見に基づいて主張されました。公判後の会見でのコメントを読むと,帝王切開死最終…

福島県立大野病院事件公判

昨日の日記で暇だ暇だと言っていたら今日は(当院としては)大忙し。まあ雑用も多かったのですが…。本日は福島県立大野病院事件公判だったことに先ほど気がつきました。今回は弁護側最終弁論とのことで,詳報が出るのを待ちたいと思います。 とりあえず毎日新…

備忘録エントリ

医療と司法に関して考察するための個人的メモです。■司法と医療 2006-06-09 ■「真実」の究明 2007-03-08 Thu ■「真実」の究明4 2007-05-26 Sat ■福島県立大野病院事件公判 2007-09-03 Mon ■科学的論証の壁 2007-10-27 Sat ■日本医師会の大罪2 2007-11-30 Fri…

胎盤早期剥離の事例

大量出血の妊婦死亡、胎児も助からず 静岡の病院 - 静岡新聞 cache shy1221先生のところで取りあげられているので専門的な考察はそちらにお任せします。記事を読んだ範囲では「誰がみても明らかな過誤」のようには思えないんですが…。今後の情報を待ちたいと…

ある会話

難しい話はよく分からないのですが,要するにこういう理解でいいんでしょうか。 「取り締まりが厳しすぎるってうちのものがどんどんやめていくんですよ。何とかしてくださいよ」 「形の上ではこっちでも厳しくするって話は通しておいた。大丈夫って言ってお…

京都大学脳死肺移植手術事件

脳死肺移植後に広範な脳障害を来して最終的に死亡という不幸な転帰に至ったケースについて,たしか3月頃に術者と麻酔科医が書類送検されたとの記事を読んだ覚えがあったのですが,報道では詳細が分からず評価を保留していました。この件についてMedical Rese…

自己免疫性疾患の社会

病院勤務時代に付属看護学校の講師に狩り出されて「免疫・膠原病」の授業を担当しました。高校を卒業したての看護師の卵の皆さんに「免疫」とは何なのかを理解できるように説明するにはどうすればいいか悩んだ末,確かこういう話をした記憶があります。 人間…

福島県立大野病院事件公判

先週は思い切りフライングしてしまいましたが,本日論告求刑です。医療の不確実性の結果として起こった不幸な事故が「過失」であるという司法判断が下されることがないことを切に望みます。 以下は司法には素人である一医療者としての私見です。医療側と司法…

医療安全調査委員会と行政処分

厚労省:医療機関に改善命令 死亡事故で法改正へ(cache) - 毎日新聞 2008年2月21日 過失による医療死亡事故が起きた場合、現行では行政が医療機関の責任を追及することはなく、医師個人への医業停止処分なども刑事事件化されたケースにほぼ限られている。し…

2.18

2.18共通メッセージ http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20080218 http://tyama7.blog.ocn.ne.jp/obgyn/2008/02/2_d5f1.html http://ameblo.jp/med/entry-10071134731.html 私見 福島県立大野病院「事件」が刑事事件として扱われたことは,被告人となった産科医師…

裁判官と市民感覚

id:Yosyanさんのエントリで個人的に興味深い一文があったのですが,長いし話の本筋から外れるように思いますのでこちらでコメントさせていただきます。あくまで司法に関しては素人の感想です。 10年ぐらい前に司法改革と言う流れが出たそうです。私はうろ覚…

福島県立大野病院事件と医師法21条

本日は大野病院「事件」第12回公判です。医療と法を考える―救急車と正義 (法学教室Library)作者: 樋口範雄出版社/メーカー: 有斐閣発売日: 2007/10/09メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 31回この商品を含むブログ (7件) を見る大野病院「事件」は現在地方…